同一労働同一賃金とは何か。最低限何をするべきか。

御社には、「業務手当」「職務手当」「営業手当」という名称で正規社員には支給されているが、パート・アルバイト(非正規社員)には支給されていない手当はありませんか。

その手当は、どのような理由で(支給条件で)支給されるものか明らかになっていますか。
また、支給対象となっていない非正規社員には、当該条件はあてはまらないものでしょうか。

2021年4月より、いわゆる同一労働同一賃金に関する法律(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律。以下「パート有期法」といいます。)が全面的に施行されました。

しかし、多くの中小企業においては、「同一労働同一賃金」と聞いて、なんとなくイメージはできるものの、法律違反をしないためには何をすればよいのか、具体的には自社に存在する制度のうち何を変更すればよいのか、法律違反とされてしまった場合にどのような法的リスクがあるのかといった点について理解することは容易ではないものと思われます。

例えば、飲食店を例に考えてみましょう。

「同一労働同一賃金」という言葉をそのままとらえた場合、正社員Aさんが行っているレジでの会計という行為を、パートタイマーのBさんも行っている場合、レジでの会計という「労働」は「同一」ですから、AさんにもBさんにも「同一」の「賃金」を支払え、ということになりそうです。

テーブルへの配膳、皿洗いも同様です。同じ労働を正社員、パートタイマーのいずれもが行っている場合、「同一労働」だから「同一賃金」が支払われなければおかしいということになりそうです。

言い換えれば、正社員と同じ作業(労働)をさせる以上は、パートタイマーにも正社員と同じ賃金を支払うことを求めるのが、同一労働同一賃金の原則であると考えるのが素直な捉え方といえそうです。

そうすると、パートタイマー、アルバイトを雇用しているすべての企業が、正規社員と非正規社員には全く別の作業をさせるか、または正規社員と非正規社員とで同一の作業を行わせるのであれば全く同一の賃金(時間給)を支払わざるを得ないことになりそうです。

果たして、パート有期法はそこまでのことを求めているのでしょうか。

従来も正規社員・非正規社員の不合理な待遇差の是正を求める紛争は裁判所において争われていましたが、2018年6月、同一労働同一賃金に関する(当時においては労働契約法に関する)2つの最高裁判決が出され、その後も2020年10月に最高裁が判断を示したことによって、同一労働同一賃金に関する裁判所の基本的な考え方が明らかになってきました。

その後も同一労働同一賃金に関する多くの下級審裁判例が出されており、多くの労働条件(待遇)について、企業の対応指針となる判断が示されてきています。

これらの判断の中で、企業が設けた正規社員と非正規社員間の様々な待遇の差が不合理なものとして無効とされているのは事実です。

しかし、最高裁もその他の下級審裁判所も、各企業における正社員、非正規社員に関する職務内容その他の事情を無視して、「同じ作業をしているのであるから同じ賃金(時間給)を支払わないとダメ」としているのではなく、何をもって「不合理と認められる相違」(パート有期法第8条)であるかについて、各企業における実態に応じた実質的な判断を行っています。

この点、裁判所によって正規・非正規間の待遇差が不合理なものであると判断された場合、同種の条件で労働している全ての非正規社員(パートタイム・アルバイト)について雇用条件を是正せざるを得なくなるうえ、それまでに存在した待遇差が不合理なものであると判断された場合には、差額の賃金を遡って支払うことが求められますから、企業のリスクとしては決して小さいものではありません。

そのため、非正規雇用をする全ての企業にとって、最高裁をはじめとする裁判所が考える同一労働同一賃金の考え方に則ったルール作りをすることは必須となります。

では、裁判所が考える同一労働同一賃金とはどのようなものなのでしょうか。
日本おいて裁判所が考える同一労働同一賃金に関する考え方としては、正規社員と非正規社員の待遇差が、職務内容や配置等の変更範囲、その他の事情に照らして不合理ではないこと(パート有期法8条)、及び雇用関係が終了するまでの全期間において正社員と職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である非正規社員については差別的取り扱いをすることを禁止すること(同法9条)をその内容としています。

すなわち、パート有期法は「同一の労働をしていれば同一の賃金を支払わなければならない」ということを強いる法律ではなく、「同一労働同一賃金」というネーミングは不正確であるといえます。

そこで、企業として最低限守るべきラインとしては、正規・非正規間に裁判所が考える不合理な待遇差をつけないこと、正規社員と職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であるような非正規社員を置かない(もし置くのであれば正規社員と同一の待遇とする)こと、ということになります。

我が国の同一労働同一賃金の対応に関して難しいのは、各企業において設けられている待遇と当該待遇が設けられた経緯(趣旨)が企業毎に区々であって、全ての企業に一律の基準というものがない、という点です。

各企業は、自社の設けている待遇について職務内容等に照らしてその適法性を各自で独自に検討する必要がある点です。

そのため、パート有期法に適した制度設計については、専門家に相談のうえ、慎重に判断することが必須といえます。

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