解雇について経営者が抱きがちな7個の間違い 解雇の要件

「解雇予告手当を支払えば、当然に解雇できる。」
「1か月前に予告さえすれば、解雇はできる。」
「就業規則上の解雇事由に該当すれば、当然に解雇できる。」
「前回ミスをしたときに、「次ミスをしたら解雇になっても構わない」と約束したので(一筆書いてもらったので)、解雇することもできる。」
「何度注意しても同じミスを繰り返し、他の社員のモチベーションも低下しているので、解雇できて当然だ。」
「正社員の解雇は難しいけれど、パート社員の解雇は容易だ。」
「契約社員(有期契約社員)は、期間が終了すれば当然雇用契約は終了するので、正社員を雇用するより確実に雇用調整ができる。」

解雇についてこのようにお考えの会社経営者も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、これらはすべて間違いです。
本記事では、どのような場合に従業員を解雇できるのか、解雇する際の手続きや注意すべき点を説明します。

1.解雇とは

解雇とは、使用者の一方的意思表示により、労働契約を終了させることをいいます。

解雇には、①普通解雇、②整理解雇、③懲戒解雇の三種類があります。 

  1. 普通解雇:労働者の能力不足や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由を解雇理由として行われる解雇
  2.  整理解雇:経営上の理由により余剰人員の削減を目的として行われる解雇
  3.  懲戒解雇:重大な企業秩序違反行為をした労働者に対して、懲戒事由に該当することを理由として行われる解雇

本記事では、①普通解雇を念頭に、解雇の手続や注意点を説明していきます。

なお、②整理解雇は、会社側の経営上の理由による解雇という特殊性があるため、その要件も①普通解雇とは異なります。(⇒詳しくは、整理解雇の要件をご覧ください。)

また、③懲戒解雇は、懲戒権の行使という性質があるので、普通解雇の要件に加えて、懲戒処分の有効性も問題となるため、普通解雇よりも厳しい要件が課されているといえます。

2.解雇の手続的な規制

(1)解雇予告・解雇予告手当

使用者は、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告しなければならず、予告しない場合は30日以上の平均賃金を支払わなくてはなりません(労基法20条1項本文)。
なお、予告日数(30日)は、平均賃金を支払った日数分だけ短縮可能(同2項)なので、例えば、平均賃金20日分を支払えば、解雇日の10日前の予告で足ります。
解雇予告手当の支払義務に反した場合、罰則が規定されています(労基法第119条第1号)。

予告期間を置かず、予告手当の支払いもなく行われた解雇は、即時解雇にはなりません。しかし、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇通知後30日を経過するか、解雇通知後に予告手当の支払をしたときは、そのいずれか先の時点で解雇の効力が生ずると解されています(細谷服装事件判決(最判昭35.3.11)等)。

もっとも、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には、解雇予告なしに即時解雇が可能です(同1項但書)。この場合、行政官庁の除外認定が必要となります(同3項)。

また、以下の労働者に対しては解雇予告・解雇予告手当支払義務が生じません(労基法21条)。

  1. 日々雇い入れられる者(ただし1か月以内)
  2. 2か月以内の期間を定めて使用される者(ただし、所定の期間を超えて使用されるに至った場合を除く)
  3. 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者(ただし所定の期間を超えて使用されるに至った場合を除く)
  4. 試用期間中の者(ただし14日以内)

なお、解雇予告手当に関連して、「解雇予告手当を支払えば解雇できる」「1か月前に予告すれば解雇できる」という勘違いをしている企業経営者が多くいらっしゃいます。

解雇予告手当は、「解雇をするために原則として支払わなければならない手当」ではありますが、「支払えば解雇することができる手当」ではありません。

解雇をするためには次の項以下でご説明する解雇権濫用法理の厳しい要件がかかっているのであって、解雇予告手当を支払えば解雇できるわけではありません。

この点を誤解して、安易に解雇をしたために多額の金銭的支払いを命じられる企業が後を絶ちませんので、解雇を検討される際には十分に注意が必要です。

3.解雇に対する実体的な規制

民法上は、雇用期間の定めのない労働契約について、労働者と使用者の双方に自由な解約(辞職・解雇)を認めており、解約申込みから2週間の経過により契約は終了するものとして(民法627条)、使用者にも、2週間の予告期間を条件とする自由な解雇を認めています。

しかし、解雇は労働者にとって非常な大きな不利益であることから、法律上厳格な要件が課されています。

(1)解雇が禁止される場合

以下の場合には、法律で解雇が禁じられています。

  1. ⒜国籍・信条・社会的身分による差別に当たる場合(労基法3条)
  2. ⒝業務上災害による療養中・産前産後休業中である場合(労基法19条)
  3. ⒞不当労働行為に該当する場合(労組法7条)
  4. ⒟性別を理由として解雇する場合・女性労働者の婚姻・妊娠・出産・労基法上の産前産後休業をしたことを理由として解雇する場合(男女雇用機会均等法6条4号)
  5. ⒠育児介護休業法所定の措置(ex. 育児・介護休業)の利用の申出・措置の利用を理由として解雇する場合(育児介護休業法10条、16条、16条の4等)
  6. ⒡労働者が都道府県労働局長に解決の援助を求めたこと、あっせんを申請したことを理由して解雇する場合(個別労働関係紛争解決促進法4条3項、5条2項)
  7. (g)一定の要件を満たした上で労働者が公益通報をした場合(公益通報者保護法3条)

 

これらのうち、特に(b)に関し、メンタルヘルス不調を理由として休職している従業員に対する解雇には注意が必要です。
例えば、うつ病を理由に休職している従業員について、復職したものの期待した能力を発揮しないために復職後30日以内に解雇したような場合、実は当該うつ病が業務に起因するものであったということになった場合、企業としては意図せず労基法違反をしていたという事態に陥ります。

(2)解雇権濫用法理(労契法16条)

上記の解雇禁止事由に該当しなければ解雇は使用者が自由に行える、というわけではありません。解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、解雇権を濫用したものとして無効になります(解雇権濫用法理。労契法16条)。

すなわち、就業規則上の解雇事由に客観的な合理性があるとしても、使用者は常に解雇し得るものではなく、当該具体的な事情の下において解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇は無効となります。

多くの解雇紛争においては、この解雇権濫用法理を巡って解雇の有効性が判断されるにもかかわらず、解雇権濫用法理の存在を知っている企業経営者すらほとんどいないというのが実情です。

解雇権濫用法理とこれに対する裁判所の判断傾向について理解しておくことは、企業経営において必須の知識といえます。

解雇権の濫用に当たるかが問題となった裁判例は無数にありますが、有名なものとして、例えば高知放送事件(最判昭和52.1.319)があります。

高知放送事件(最判昭和52.1.319)

ラジオのアナウンサーが約2週間の間に2回、寝過ごしにより担当の早朝ラジオニュースを放送できなかったことなどを理由に解雇された事案です。
裁判所は、上記アナウンサーの行為は就業規則所定の普通解雇事由に該当するものであるとしながらも、放送事故は悪意や故意によるものではなく寝過ごしという過失によるものであること、当該アナウンサーにこれまで放送事故歴はなく平素の勤務成績も別段悪くないこと、同社において放送事故を理由に解雇された例はないこと等の事実から、本件で解雇するのは苛酷すぎるといえ、社会的相当性を欠くと判示しました。

多くの会社の就業規則に規定されている解雇事由としては、以下のような事由があげられます。

  • 労働者の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失
  • 職務能力・成績・適格性の欠如
  • 欠勤、遅刻・相対、勤務態度不良等の職務怠慢
  • 経歴詐称
  • 業務命令違反、不正行為等の非違行為・服務規律違反
  • 経営上の必要性に基づく理由(⇒整理解雇)

企業経営者としては、以上の事由に代表されるような就業規則上の解雇事由に該当すれば直ちに解雇してよいと考えがちですが、これらの事由に該当していることを前提として、なお解雇とすることが相当といえるかが問題とされるのです。

多くの解雇に関する裁判手続対応を行っている当事務所弁護士から見て、企業経営者が考える「これくらいの問題があれば解雇しても仕方がないだろう」という程度と、裁判所が考える程度には、明らかに大きな開きがあります。

解雇権濫用法理に関する裁判所の判断傾向を知ることは、法律上無効な解雇をしてしまったがために多額の金銭支払をせざるを得ないという事態を回避するために極めて重要です。

それぞれの解雇事由につき、具体的な事例においてどのように判断されるかは
解雇事由ごとの検討①能力不足・適格性欠如
解雇事由ごとの検討②勤務成績不良
解雇事由ごとの検討③ハラスメント
解雇事由ごとの検討④刑事事件
をご覧ください。

4.有期労働者の労働契約の終了(解雇・雇止め)

(1)契約期間中

期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合は、あらかじめ使用者と労働者の合意によって契約期間が定められたのですから、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ契約期間の途中で労働者を解雇することはできません(労契法17条)。  

ここでいう「やむを得ない事由」については、無期労働契約の場合の解雇権濫用法理における判断よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。

また、仮に「やむを得ない事由」があって解雇ができるとしても、「やむを得ない事由」の発生原因が企業の過失によって生じたものである場合、企業としては損害賠償義務を負わされる点に注意が必要です(民法628条)。
以上のとおり、有期契約従業員について契約期間途中で解雇することには厳格な要件が課されており、企業経営者としては極めて限定的な場合でなければ解雇できないというイメージを持っておくのがちょうどよいかと思われます。

(2)契約期間満了後

契約期間が満了すれば、原則として自動的に労働契約が終了します。契約期間が満了した後、契約を更新しないことを「雇止め」といいます。

ただし、3回以上契約が更新されている場合や1年を超えて継続勤務している人については、契約を更新しない場合、使用者は30日前までに予告しなければならないとされています(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」〈厚生労働省告示〉)。

しかし、有期労働契約であっても、期間満了時に契約更新が繰り返され、実質的に期間の定めのない雇用契約となっている場合に、使用者がある日突然契約期間満了を理由に解雇することは、期間の定めのない契約の「解雇」と実質的に同じであろうという考え方に基づき、

  1. 有期労働契約を反復して更新することにより、実質的に期間の定めのない契約と変わらないといえる場合(労契法19条1号)
  2. 有期雇用労働者において、雇用の継続を期待することが合理的であると考えられる場合(労契法19条2号)

には、雇止め(契約期間が満了し、契約が更新されないこと)をすることに、客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないときは雇止めが認められず、従前と同一の労働条件で、有期労働契約が更新されることとなります(雇い止め法理。労働契約法19条)。

①実質的に期間の定めのない契約と変わらないといえる場合とされたリーディングケースとしては、東芝柳町事件(最判昭49.7.22)があります。

本件では、労働者は期間2か月で臨時工として雇用されていましたが、5~23回にわたり契約更新を受け、仕事の種類や内容も本工(無期労働者)と同じであり、使用者からも長期継続雇用、本工への登用を期待されるような言動をとっていたことから、実質的に無期労働契約と同視できるとされました。

実務上、昨今は実質的に期間の定めのない契約と変わらないとされるケースはそれほど多くないと思われます。

他方、②雇用の継続を期待することが合理的であると考えられる場合とは、契約の更新回数・契約年数や、有期契約労働者の業務内容、更新を期待させるような使用者の言動、不更新条項・更新限度条項の有無等の要素を総合的に考慮して判断されます。

雇用の継続を期待することが合理的であるとして争われるケースは、実務上も多くの場合に問題となります。

例えば、契約締結時に使用者から「契約上は有期雇用になっているが、ずっといてもらうことになると思う。」といった発言がある場合や、有期雇用契約書上更新が当然予定されるような規定ぶりになっている場合、更新手続が形骸化している場合(契約期間が満了してから新しい契約書を作成している場合)等、②が問題となる事案は多いです。

予想外の契約更新を強制されるといった事態を避けるためにも、今一度、自社の有期雇用労働者との間で用いている契約書や契約締結実務について確認されることをお勧めします。

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