就業規則の重要性

御社には「就業規則」はありますか。あるとして、誰が、どのようにして作成したものでしょうか。
また、御社の就業規則の内容は、御社の実態を反映したものになっていますか。

本稿では、就業規則の重要性について説明をさせていただきます。

就業規則は会社における社員のルール(労働条件)を規定したものです。
会社では多数の社員が働くことから、その一人ずつについて、個別にルール(労働条件)を決めると会社が把握するべきルールは社員の数だけあることになり、ルール把握が複雑・困難になります。

また、個々の社員毎に違うルールが適用されると、会社が社員を管理すること自体困難となります(例えば、個々の社員毎に労働時間の長さや始業・終業の時間が異なると労働時間管理は事実上不可能となることは想像しやすいところかと思います)。

このような理由から労働基準法は就業規則による労働条件の規律を認めています。就業規則があることにより、会社は個々の社員の労働条件を個別に合意・決定する必要がなくなります。

この社員のルールをまとめて規律することができる効力を、就業規則の労働契約規律効といいます(労働契約法第7条)。
労働契約規律効が認められるためには、合理的な内容の労働条件が定められている就業規則が社員に周知されている必要があります。

しかし、団体交渉、労働審判、訴訟等、労働者との間で紛争となると、従業員は「就業規則を見たこともない。会社には就業規則は周知されていなかった。」という主張をすることが少なくありません。

そして、実際、過去のある時点において会社が就業規則を周知していたことを立証することは困難を伴います(「原告である労働者が入社した令和〇年〇月時点において、会社内において就業規則が周知されていたこと」を示す資料を直ちに提出することが難しいであろうことは、容易に想像がつくところかと思います)。

そこで、全ての社員が入社した時点で締結する書類(雇用契約書、労働条件通知書等)に「確かに就業規則を確認しました。」という記載をし、署名・捺印を得ておくことで、「就業規則などみていない」という主張を防ぐことができますので参考にしてください。

次に、就業規則には最低基準効と呼ばれる特別な効力があります。

具体的には、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、この場合において、無効となった部分は、就業規則の定める基準によるという効力です(労働契約法12条参照)。

したがって、会社と社員が個別に就業規則を下回る労働条件で雇用契約を締結したとしてもこの就業規則の最低基準効によりその個別の労働条件は無効になるので注意が必要です。

時折みられる現象として、経営者の方が就業規則の内容を十分に把握しておらず、特定の従業員との間で就業規則を下回る個別合意をしている場合に、「本人がいいと言っているんだからいいんだ」といった主張をするケースが散見されますが、このような個別合意は就業規則の最低基準効から効力を否定されることから、注意が必要です。

以上のとおり、就業規則は従業員と会社との契約内容を定めるにあたり、拠り所となる極めて重要な性質をもっています。

そうであるにもかかわらず、多くの企業において、企業実態を把握していない外部の人に提供された雛型の就業規則や、インターネットで検索してダウンロードした就業規則、知り合いの経営者から提供された当該会社の就業規則を利用している実態が散見されます。

しかし、例えば、業務委託契約書など取引に関する契約書については外部専門家に逐一依頼して内容を精査するのに、今後入社してくる全ての従業員に適用される就業規則の作成に十分な精査をしないというのは、明らかにバランスを欠いており、経営判断として誤っているといえます。

労働紛争になった場合、就業規則は真っ先に提出が求められるものであり、決して適当に作成して良いものではありませんし、経営者としてその内容については十分に理解・把握しておくべきものであることは間違いありません。

今一度、御社の就業規則を見直していただき、経営者として把握していない内容がないか、実態に比して過剰に従業員を優遇した規定はないか、自社の企業実態と乖離した規定がないかは十分に精査してみてください。


最期に、就業規則に記載すべき事項としては次のようなものがあります。
これらの事項が備わっていることは就業規則の絶対条件となりますので、最低限これらの事項を網羅しているかはチェックいただければと存じます。

①絶対的必要記載事項

いかなる場合にも記載されなければいけない事項

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項
  • 賃金について、その決定・計算・支払の方法、締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項

②相対的必要記載事項

ルールを定める場合には記載されなければならない事項

  • 退職手当に関する事項
  • 臨時の賃金及び最低賃金額に関する事項
  • 労働者の食費、作業用品その他の負担に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • その他当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
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