ハラスメントは企業リスク

昨今、企業においてハラスメントが発生し、それによって被害者が精神疾患など何らかの被害を被った場合、被害者である労働者が、加害者である上司・同僚のみならず、当該ハラスメントを防止しなかった企業の責任を追及する場面が少なくありません。

法令上も、男女雇用機会均等法によってセクハラが、介護休業法によって妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントが規制されています。

また、従来パワーハラスメントについては使用者の義務に関する規定は置かれておりませんでしたが、パワハラ防止法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)において、職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等が規定され、使用者としては積極的にパワハラ防止措置を講じる義務を負うこととなりました。

ハラスメントに対する社会の関心も高く、一部のハラスメント案件については広く報道され、当該企業がブラック企業と揶揄され、いわば炎上する事態も数多く発生しています。

ひとたび世間一般にブラック企業であるとのイメージを持たれてしまうと、そのイメージを払拭することは容易ではなく、当該企業の営業活動はもちろんのこと採用活動等にも悪影響を及ぼすため、ブラック企業と認識されることのレピュテーションリスクは看過できません。

法的には、ハラスメントが発生した場合、行為者である加害従業員が被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うほか、当該ハラスメントを防止しなかった企業に対しても、安全配慮義務違反や使用者責任を理由として損害賠償を求める請求がなされることが一般的です。
その意味で、ハラスメントは使用者にとっても金銭リスクとなります。

そして、ハラスメントによって被害者が自殺するといった重大な結果が発生した場合、数千万円~1億円を超える損害賠償請求がなされる場合もあるため、ハラスメントは金銭リスクとしても重大であるといえます。

以上から、企業としては決してハラスメントが発生しないような職場環境を整備することが必須となります。
この点、例えばセクハラのようにハラスメントであるか否かの判断が比較的容易であるため、禁止する行為類型が明確なハラスメントであれば、使用者としても従業員に対する周知徹底・注意指導がしやすいといえす。

他方、パワーハラスメントについては、その判断は容易ではありません。

なぜなら、パワーハラスメントは正当な業務命令の延長線上にあることが多く、正当な業務命令とパワーハラスメントの境界線が曖昧であるためです。

単なる嫌がらせやいじめといった目的で行われるケースは論外としても、一般に行為者(上司)としては、部下の業務上の問題点について改善を促すべく、教育指導のつもりで行ったものが結果として行き過ぎてパワーハラスメントに該当するという場面は少なくありません。

使用者としても、企業秩序維持という観点からは正当な業務命令についてはむしろ推奨するものであり、禁止する理由はありません。

そうすると、正当な業務命令であるのか、パワーハラスメントであるのかについての判断基準が決定的に重要になります。

この点、パワーハラスメントであるか否かの判断基準について「受け手が嫌な思いをしたら」といった受け手の感性・受け取り方で判断する考え方があります。

しかし、この考え方は誤っています。正当な業務命令であっても、上司から注意指導される場合に部下が「嫌な思い」をするのはやむを得ないことであって、部下が嫌だと感じたらパワーハラスメントに該当するのであれば、あらゆる注意指導がパワーハラスメントに該当するということになりかねません。

そのような考え方では企業の秩序維持をなし得ないことは明らかであって、企業活動の指針とはなり得ません。

では、どのような要素を備えるとパワーハラスメントに該当してしまうのか、何を注意していればパワーハラスメントであると指摘されないのか。

この点、理想的にはパワーハラスメントに該当する可能性のあらゆる行為を一切防止するのが望ましいといえます。
もっとも、企業として是非とも避けなくてならないのは損害賠償責任が発生するようなパワーハラスメントの発生です。そのためには、実際にパワーハラスメントを巡って争われた多くの裁判例から、具体的に裁判所の考えるパワーハラスメントに対する基準を分析していく必要があります。

そのような裁判例の分析の結果導き出された禁止されるべき行為類型を従業員に啓蒙することで、重大なパワーハラスメントの発生リスクを抑えることができるのです。

その意味で、ハラスメント発生時の紛争解決は勿論のこと、ハラスメント発生予防についても、ハラスメント対応を得意とする弁護士にご相談いただくことが有益といえます。

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