従業員不祥事及び問題社員への対応

企業経営において多くの従業員を雇用していると、中には経営者として信じられないような問題を起こす従業員が出現します。

そのような従業員が出現した場合、当該従業員の担当業務の停滞や支障の発生にとどまらず、他の従業員に対する悪影響をはじめとして、企業経営上様々な問題が生じます。

企業としては、従業員の不祥事や問題行動に対して毅然と対応することで、企業に生じる損害を最小限に抑えると共に企業秩序の維持・改善を図る必要があります。

問題社員対応について

まず、問題社員への対応として、それまで多くの非違行為に我慢を重ねてきたとして、いきなり解雇処分や懲戒処分を行う経営者が散見されます。

しかし、労働契約法上、解雇には厳格な規制がかかっており(解雇権濫用法理)、ただ問題行動が繰り返されたというだけでは従業員を解雇することはできません。

実際解雇の原因とされた非違行為の重大性にもよってまいりますが、一般には、繰り返される問題行動に対して注意指導、その後に続く懲戒処分を行うことで本人に対して繰り返し反省悔悟の機会を与え、それでもなお改善が期待できない場合に最後の手段として行われるのが解雇処分です。

また、従業員の問題行動に対して懲戒処分をする場合にも労働契約法上の制約があり(懲戒権濫用法理)、行われた非違行為に対する合理的な証拠に基づく事実認定と、認定された非違行為に対して相当と認められる内容の懲戒処分をする必要があります。

なお、懲戒処分を行う場合には、就業規則に懲戒に関する手続きが規定されているのであれば、当該手続に従って処分をする必要があり、処分の内容のみならずそれに至る適正な手続きについても意識する必要があります。

この点、懲戒対象行為そのものについて当該従業員が否定する場合も少なくないため、会社としては懲戒処分の前提として、懲戒対象行為についての証拠保全が極めて重要となります。

経済犯罪等の重大な不祥事について

従業員の非違行為が単なる業務上の問題行動にとどまらず、業務上横領や背任といった犯罪行為に至っている場合、企業としては社内的な懲戒処分にとどまらず刑事告訴といった刑事手続や民事訴訟の提起を検討することとなります。

この点、長期間にわたって行われる業務上横領等の経済事犯については、行為者も自らの行為が発覚しないように周到に隠ぺいを図っているケースも少なくないため、証拠の収集にあたっては慎重な調査且つ広範囲な証拠の探索が必要となります。

さらに、不祥事の調査にあたっては関係者からのヒアリングが必須となるところ、ヒアリングの過程で会社側の行き過ぎた対応があると、逆に調査対象者から違法な圧迫を受けたであるとかパワーハラスメントがなされたといった主張を招く場合があるため、慎重に対応する必要があります。

不祥事について刑事事件化することを検討する場合、一般に、捜査機関は企業内部の不正に関する告訴事案に対して消極的な姿勢を示す場合が多いです。

少なくとも、経済事犯についての社内資料をまとめて警察署に持ち込んで、その場で告訴が受理されることはまずありません。
細かい相談を重ねることで事件化の可能性について繰り返し検討し、やっと告訴状を正式に提出するというのが実務上の流れです。

そのため、いかに捜査機関に対して説得的な資料提供ができるかによって告訴が受理されるかの結論に関わってまいりますので、社内不正の調査に長けた法律専門家と相談しながら作業を進めていただくのが適切であるといえます。

更に、経済犯罪が行われた場合、加害者である従業員から被害額について弁償を受けたうえ示談を締結しますと、結果として被害回復がなされたとして刑事事件として立件される可能性は低くなります。

企業の判断として、被害回復を優先するのか、当該問題社員に対する処罰や他の従業員に対する示しという意味での企業秩序維持を優先するのかという大きな方針についても、事前に固めたうえで対応方針を決定するのが適切であるといえます。

以上の通り、問題社員対応、企業不祥事対応については、事案の重大性、被害の程度に応じて検討するべき処分、手続の内容が異なってまいります。

不正調査等の作業に携わる社内関係者の負担は重くなる傾向にあるため、通常業務に加えて非違行為の対処を担当させるのであれば、担当者の負担についても十分な配慮が必要です。

そして、不正行為について刑事事件化する場合には、社内関係者のみならず捜査機関を含めた外部者も巻き込んだ事案となることも想定して、不正調査を得意とする専門家と共に十分な準備を重ねて対応にあたるべきであるといえます。

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