急増する従業員のメンタルヘルス問題に対処する方法

昨今、メンタルヘルスに問題を抱えた従業員の対応に苦慮する企業が多くなっています。
実際、厚生労働省が発表している精神障害等の労災補償状況によれば、平成元年度における精神障害を理由とする労災の請求は年間2件、平成10年度には42件であったのに対し、平成20年度には927件に、令和元年度には2060件と20年間で激増しています。

従業員がメンタルヘルスに不調を抱える原因には様々なものが考えられますが、時間外労働によって雇用調整を図ってきた我が国の雇用慣行上、長時間労働に起因して生じる精神疾患が多くみられます。

そして、一度精神疾患となると、復調しても再度同一又は類似の精神疾患に罹患するなど、復調が容易でないという点もメンタルヘルス問題の特徴であるといえます。

また、メンタルヘルス問題を抱えた従業員から、メンタルヘルス問題の発生は会社業務に起因するものであるという主張がなされる場合も少なくありませんが、外傷を伴う労災と異なり、メンタルヘルス問題については外部から容易には症状をうかがい知ることができず、ましてその原因については様々な要因が考えられます。
そのため、具体的に何が原因であったのかの検証も困難で、当該疾患を私傷病または労災のいずれとして扱うか、企業として対応に苦慮する場合が多いです。

さらに、多くの企業では就業規則における休職に関する規定において、定められた休職期間中に復職できなかった場合に退職する旨(解雇・自動退職)の規定を置いています。

そのため、当該従業員としては休職期間中に復職できなければ従業員としての身分喪失という事態に陥るため、復職判断の際には従業員としての地位をめぐって紛争が先鋭化する場合も少なくありません。

殊に、「軽易作業であれば復職可」といった扱いに困る診断書の提出がなされた場合どのように対処をするべきなのか、当該診断をした医師(主治医)に対して診断内容について問合せをすることは個人情報の関係で問題がないのかといった形で多くの人事労務担当者が悩むところです。

このように復職に関して紛争が生じた場合、従業員としても生活の糧としての賃金を得る手段を失うリスクに曝されるうえ、メンタルヘルス不調から転職も容易でないため、企業に対して出来得る限りのありとあらゆる主張をしてくる傾向にあります。

例えば、休職命令を発令した時点では一切主張のなかったパワーハラスメントの主張や、サービス残業によってメンタルヘルス不調の問題を抱えてしまった(そのため、休職の原因となった精神疾患は労災となるため、就業規則の休職規定によっては自動退職とならない)という主張です。

このような主張がなされた場合、企業としては当該従業員の主張の前提となる事実関係の有無を調査しつつ、適切に休職関係の処理を進めなくてはなりません。
その一方で、手続き処理の過程でなされたやり取りが原因でさらに精神疾患が悪化したといった事態は絶対に避けなければなりません。

例えば、精神疾患によって休職と復職を繰り返す従業員に対し、会社としては退職勧奨をしたいと考えるケースがあります。
この場合、退職勧奨はそれ自体従業員に与える心理的負荷が少なくないため、休職期間中またはそれに準じる従業員に対しては退職勧奨をするにしても極めて慎重に行う必要があります。安易に退職勧奨をかけたことで、かえって紛争を深刻化させるといった事態は避けなければなりません。

以上の通り、従業員のメンタルヘルスに関する問題は、企業にとって次々と多くの困難な判断を強いるうえ、一つ一つの判断を誤ると、その後大きな労務問題に発展するリスクが潜んでおり、慎重な対応が必要となります。

そのため、メンタルヘルス不調の従業員対応については、弁護士の意見を聞きながら、生じうるあらゆる事態を想定しつつ慎重に対応策を検討するのが適切です。

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