休職期間満了による自動退職について

怪我や病気で長期間休職している労働者がいる場合、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。

特に最近では、うつ病等の精神疾患による休職が増加しておりますが、精神疾患は身体的な傷病と比べて外見的には病状が判断し難く、また完治も容易ではないため、復職可能であるかの判断も困難です。

以下、私傷病休職及び休職期間満了による自動退職について解説します。

1.休職とは

休職とは、労働者が労務に従事できない、または従事することが適当でない場合に、当該労働者との労働契約を維持しながら労務への従事を免除又は禁止することをいいます。

どのような場合に休職できるか(休職事由)は使用者が就業規則によって一方的に決めるのが一般ですが、以下のような事由が定められている場合が多いです。

  1. 私傷病休職
  2. 自己欠勤休職
  3. 起訴休職
  4. その他、出向休職、留学休職、公職休職、組合専従休職など

本記事では、このうち①について解説していきます。

なお、精神疾患に起因する休職制度についての詳細は、【急増する従業員のメンタルヘルス問題に対応する方法】を参照ください。

2.私傷病休職とは

私傷病休職とは、業務外の傷病による労働者の欠勤が一定の長期間に至った場合に、一定期間、当該労働者を休職とする制度です。
休職期間中に私傷病が治癒しなかった場合、休職期間満了時に自動退職となる旨の定めが就業規則上に置かれているのが通例です。

これに対して、業務上の傷病(=労災)による休職の場合は、解雇が制限されます(労基法19条1項本文)。

私傷病に関する退職・解雇で問題となるのは、主に、①休職させることなしに解雇した場合、②休職期間満了により自動退職とした場合です。

なお、休職期間満了時に復職できなかった場合に「解雇」とする旨規定する就業規則が散見されますが、そのような定め方はせず、当該規定は「自動退職」「自然退職」と改めるべきです。
なぜなら、「解雇」とした場合、休職期間満了となった従業員が発生する度に解雇予告を求められることになりますし、解雇権濫用法理が正面から問題となるためです(もっとも、復職の可否を巡って争われる場合には、「自動退職」「自然退職」という文言になっていても、事実上、解雇権濫用法理類似の主張がなされ、同様の紛争となる場合はあります)。

3.休職命令発令前の解雇

休職制度の趣旨は「解雇猶予」制度であるといわれます。

したがって、休職制度が整備されているのにそれを適用することなく、私傷病を理由に解雇することは、自ら設置した休職制度を無視するものであり、原則として違法と判断されます。

日本ヒューレット・パッカード事件(最判平24.4.27)

盗撮や盗聴等を通じて日常生活を監視され嫌がらせを受けているとの認識を、約3年間にわたり有していた(実際には事実ではなく、精神的な不調によるものであった)労働者が、有休消化後、約40日間にわたり欠勤を続けたため、会社が諭旨退職処分とした事案です。

裁判所は、「使用者…は、…精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべき」であり、そのような対応をとらずに行った諭旨退職処分を無効と判断しました。

なお、休職期間満了時に復職できる蓋然性が極めて低いと考えられる場合には、休職を命じる必要はないとした裁判例として、農林漁業金融公庫事件(東京地判平成18.2.6)があります。

この事案は、低酸素脳症による高次脳機能障害によって4~5歳児程度の知能・判断力となり、複数の医師から「労働能力はほとんどない」「長期的には大幅な回復は期待できない」と意見されていた事案において、客観的な就労能力がない以上、休職命令を発令しなかった使用者の判断を適法としました。

もっとも、休職判断の時点で、将来的な休職満了時に復職できる蓋然性が極めて低いという判断自体困難を伴うのであって、実務上は、休職規定の存在にもかかわらず休職させずに退職させる(解雇する)という判断は慎重に行うべきであるといえます。

4.休職期間満了と治癒

(1)治癒とは

私傷病休職者が、所定の休職期間満了までに職場復帰可能な状態、すなわち「治癒」しなかった場合には、休職事由が消滅しないまま休職期間が満了したとして、自動退職させることとなります。

そこで、何をもって「治癒」と判断するのかが問題となります。

この点、最高裁判所は、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当」と判断しました(片山組事件(最一判平成10.4.9))。

この最高裁判例から、休職期間満了時に、休職前の職務に直ちに復帰できない場合であっても、使用者としては他に担当させることの可能な業務がないか、短期間で現状から回復するのではないかといったことを検討する必要があり、即座に自動退職とすることにはリスクがあるということがいえます。

たとえば、エール・フランス事件(東京地判昭和59.1.27)では、休職期間満了時に休職前の作業への復帰はできなくても、その後「当初の間」に軽作業に従事させつつ徐々に通常勤務に復させることができるような場合には、復職を認めるべきであるとされました。

以上からすると、会社は、休職前の業務を行うことは難しい労働者についても、他の業務への配置可能性の検討や、一定の猶予を与えるなどの配慮が必要といえます。

実務上も、休職期間満了間際になって、「軽易作業であれば復職可」「短時間勤務であれば可」といった条件付きの復職可能とする診断書が提出されるケースや、明らかに病状の回復は見られないにもかかわらず「復職可」と記載された診断書が提出されるケースも多くみられます。

そこで、(2)に記載した判断手法で、慎重に復職の可否を判断していくこととなります。

なお、復職判断に際し、何をもって「治癒」とするかの紛争となることを可能な限り避けるべく、「治癒」とはどのような状態をいうのか(従来の業務を条件付きでなく休職前と同様に行えること等)を就業規則に明確に規定しておくことをお勧めします。

(2)治癒の判断材料

傷病が治癒したかどうかの判断は、産業医をはじめとする医師による医学的判断を前提としつつも、会社の判断として復職可否を決する必要があります。

会社としては、休職していた労働者が提出した診断書等の判断材料を確認・調査して、職場復帰が可能であるか判断します。そこで、労働者が診断書等を提出した場合、会社はその内容を慎重に吟味、検討することが必要です。

そして、会社としては当該診断書を作成した医師に対して直接情報提供を求め(このために、就業規則に医療情報提供についての同意についての規定を置くべきです。)、当該医師の説明も踏まえ、会社指定医の診断を受けさせ、場合によってはセカンドオピニオンを求めつつ、復職の可否を判断することとなります。

少なくとも、提出された診断書等に矛盾点や不自然な点があるからといって、直ちに「治癒」していないと判断するのは適切ではなく、復職を不可とするのであれば当該判断を裏付ける証拠を確保してから判断するべきです。

以上の慎重な検討・判断の結果、「治癒」していないという判断に至った場合には、休職期間満了までに復職できなかったものとして、退職扱いとすることとなります。

この場合には、高い確率で紛争となると思われますので、使用者としての個々の判断について証拠資料をしっかりと残しておくことは勿論、休職開始時(場合によってはそれ以前からの)対象労働者とのやり取りについても細かく証拠化しておくことが有効です。

ページトップへ